お題目は慈悲の教え
母の赤子の口に 乳を入れんと はげむ慈悲なり
日蓮聖人御遺文 『諌暁八幡抄』
乳飲み子を育てる母親は、自分のことは二の次にして、ただただ赤子のことを思って毎日過ごします。自分のためだけではなく、世の中のすべての安らぎを祈るのが「南無妙法蓮華経」のお題目。赤子のために一生懸命な母親の姿と重なるものがあります。赤ん坊が母親の慈愛を理解するのは、ずっと後のこと。大きくなって初めて分かることです。成長した後も私たちには、暮らしのなかで見逃してしまっている大切なことがたくさんあるのではないでしょうか。
出典:日蓮宗新聞社発行『今月の聖語』平成二十八年十月号
本年は日蓮聖人の母親・妙蓮尊儀の第七百五十遠忌にあたり、九月十五日には日蓮宗大本山誕生寺に於いて宗門法要が行われました。日蓮聖人は大変な親思いであることが知られております。現在ではロープウェイが整備され、容易にその山頂・思親閣まで行くことができますが、身延山在住の九年の間、故郷のことを思い出されては、西谷のご草庵より道なき道を登られ、遙かに房州小湊のご両親を追慕されました。
今月の御遺文には「慈悲」という極めて重要な仏教の言葉が登場しております。「慈悲」と類似する言葉として、キリスト教の「愛」がありますが、「愛」とは仏教では見返りを求めるもの、すなわち執着心・煩悩となります。仏教の「慈悲」という言葉は見返りの求めない愛情のことであり、子供に対する母親の行動が、慈悲を端的に表す行動としてよく例えられます。
日蓮聖人は、母親が子供に乳を飲ませるが如く、一切衆生を救うが為に「南無妙法蓮華経」のお題目を唱えさせようと、その御生涯を法華経弘通に捧げられました。今月二十日に本覚寺では、日蓮聖人の第七三五遠忌の御会式を行います。是非ともご一緒にお題目をお唱えし、報恩の気持ちを捧げましょう。
(本覚寺副住職・加藤智章)